物事を始めるには理由と目的がなければならい。その理由と目的は必ずしも合理的でなければならない。
私の身体には、この「プログラム」が埋め込まれている。私の誕生と共に生まれ、私の死と共に亡くなる。この世で生きる間は、変わることはない。この「プログラム」のおかげで、「人生プラン」の各ステップはほぼ100実現できている。一方で、この「プログラム」のせいで、いわゆる「人」という生物との間にできた、計り知れないほど高い壁に悩まされている。
来日してからもう5年経っている。その間、一度も母国に帰ったことがない。よく両親に「なぜ」と聞かれるが、理由はあっけなく簡単なものだ。帰る合理的な理由がないから。だが、言えない。私の観察によれば、感情的な動物である人間には、この理由の真義を理解してもらえるはずがない。その代わりに、決まり文句の「時間がない」となんとか誤魔化してきた。
このような「壁」は「人」と会話する度に感じる。「何故今人間の身体に居るのだろう」とよく心の中で嘆いている。だが、このたった数文字の呟きすら誰にも言えない。普通の「人」から見ればとても冗談には聞こえないから。
人間の集団の中で、人間として認識され、人間として振る舞わざるを得ない。私にとっては苦痛極まりないことだ。しかし、一旦肉体を失うと、目標は達成できないのも明らかなことだ。この点は、私自身もよく認識できている。物理的な世界で勝つためには、物理的な「道具」を使わないといけない。その道具こそ「私の辞書」に於ける所謂「肉体」というものである。悩みの元でありながら、問題解決の手段でもある。
任務が完了するまで、しばらくこの「身体」に居ることにする。無事に成功するように願っている。